障害のある医療系学生・医療者のこと

障害のある医療系学生や医療者、また障害のある人の医療に関する論文の備忘録です

米国の現役医師における障害のある医師の割合

Estimated Prevalence of US Physicians With Disabilities
Nouri Z, Dill MJ, Conrad SS,JAMA Network Open, 4(3);  e211254, 2021.

 

本調査は、米国医科大学協会(AAMC)による6000名の現役医師調査において、障害のある医師の割合と特徴を評価したものである。

 

背景
障害は医学教育においてますます重要なテーマとなっており、近年のAAMCのガイダンスでは障害が多様性の重要な要素であると認識されている。医学生の障害割合は調査がなされてきたが、医師に関する該当データは存在しない。私たちの知る限り、本研究は、現役医師の割合と特徴を体系的に示した初めての報告書である。

 

方法
本調査では、医療専門家委員会の現役医師メンバー 6,000人のサンプルからデータを収集した。 2019 年 2月に、合計86,951人の資格のある医師に回答依頼を行い、6,000 人の回答が集まった約 2 週間に調査を終了した。最終サンプルは、2018年の米国医師会の医師マスターファイルと比較して、海外の医学部卒業生(6%)を除いて分析した。

回答では、医師は障害のあるアメリカ人法における障害者の定義に基づき、8つの障害区分リストから自分の障害を選択する形式をとった。回答者は、人種/民族、出生時に割り当てられた性別と現在の性自認にも回答している。人口学的特性に加えて、雇用形態や勤務地(地方または都市部)、専門分野、遠隔医療サービスの利用などの診療の特徴についても質問した。

 

結果
医師6000人の代表サンプルのうち178人(3.1%、95%CI:2.6%~3.5%)が障害があると自認していた。

調査サンプルには、男性 3,768 人(62.8%)、女性 2,055 人(34.3%)、LGBTQまたはその他の人々が20 人(0.3%)だった。参加者の平均年齢は53.0±12.3歳で、主な人種/民族(重複あり)は、白人が 4,148 人(69.1%)、アジア人が 1,347 人(22.5%)、ヒスパニック系、ラテン系、またはスペイン系が 224 人(3.7%)だった。

最も多く報告された障害区分は慢性疾患 (54 [30.1%]; 95% CI:23.3%-36.9%) で、次に歩行障害 (51 [28.4%]; 95% CI:21.7%-35.1%)、精神障害 (25 [14.2%]、95% CI:9.0%-19.4%)だった。その他の障害(例、本態性振戦: 24 [13.4%]、95% CI:8.3%-18.4%)、聴覚障害(22 [12.1%] ; 95%CI:7.3%-17.0%)、ADHD (19 [10.4%]; 95% CI:5.9%-14.9%)、視覚障害 (14 [7.8%]; 95% CI:3.8 %-11.8%)、学習障害 (5 [2.6%]; 95% CI:0.2%-4.9%)もいた。二つ以上の障害を重複する者(例、聴覚および歩行障害)は28人(15.7%; 95% CI:10.3%-21.1%)だった。

障害のある医師は障害のない医師よりも有意に高齢だった(54.8±12.7歳 VS 52.5±12.2歳)。障害のある医師のうち、16 人 (9.2%) が医師集団において過小評価されている人種または民族グループの一員であると回答しており、26 人 (14.7%) が現在または過去に軍隊任務に就いていた。障害のある医師のうち10人 (5.8%) がバイセクシュアルであると回答し、3 人 (1.7%) が同性愛者またはレズビアンであった。

 

考察
本調査での障害のある医師の割合は、3.1%と推定された。障害のある医師の多くは、差別に直面する可能性が高い集団のメンバーであることも分かった。伝統的に医学界で過小評価されてきた集団が経験した偏見、嫌がらせ、差別を考慮すると、今回の調査結果は、差別に合う可能性がある複数のアイデンティティが交差する現場にいる医師にとって重要な意味を持つ。本研究の限界としては、参加者の偏見や障害を報告しづらい状況から、把握できていない者がいる可能性も考えられた。
本データは、今後の調査のためのベンチマークとなり得る結果であった。

 

全国の医師による、重度歩行障害のある患者に対するアクセシブルな体重計と検査台/椅子の使用

Use of Accessible Weight Scales and Examination Tables/Chairs for Patients with Significant Mobility Limitations by Physicians NationwideI
Iezzoni LI, Rao SR, Ressalam J, et al, Joint Commission journal of quality of patien safety, 47(10):615-626, 2021.

 

背景
歩行障害は、障害のある6100万人のアメリカ人のなかで最も一般的な障害のタイプである。歩行障害のある患者に関する研究では、彼ら/彼女らがアクセスできない医療機器が医療ケアに大きな障壁となっていることが示唆されている。

 

方法
全米の7つの専門分野を代表する無作為に選ばれた医師を対象に、歩行障害のある患者をケアする際に利用する体重計と検査台/椅子の使用状況について調査した。記述統計を示したのち、多変量のロジスティック回帰分析によりアクセス可能な機器と回答者の属性との関連性を分析した。

 

結果
参加者714名(回答率 = 61.0%)は主に男性で白人、都市部居住者で、経験20年以上であった。患者の体重を定期的に記録していると回答した者(n =399)のうち、重度の歩行障害のある患者が使用できるアクセシブルな体重計を常にもしくはしばしば使用していると回答した者はわずか 22.6%(SE = 2.2)だった。歩行障害のある患者の体重を把握するために、「常に」患者に質問していたのは 8.1%、「通常」質問していたのは 24.3%、「時々」質問していたのが40.0% だった。 

属性との関係では、20年以上勤務している医師は、他の医師よりも歩行障害の患者が使えるアクセシブルな体重計を使用することがはるかに低かった(OR = 0.51, 95% CI = 0.26-0.99)。重度の歩行障害のある患者を診察した者(n = 584)のうち、歩行障害の患者が使えるアクセシブルな検査台または椅子を、常にまたは通常使用していた者はわずか 40.3%(SE = 2.2)だった。専門医はプライマリケア医よりもアクセシブルな検査台/椅子を使用する可能性がはるかに高かった (OR = 1.96, 95% CI = 1.29-2.99)。

 

考察
障害のあるアメリカ人法の制定(1990年)から30 年以上が経過しているが、調査対象となった医師のほとんどは、慢性的に重大な歩行障害のある患者の日常的な診療において、患者が使用できるアクセシブルな機器を使用していなかった。

なぜ障害のある医師が増えることが障害のある患者の医療を向上させるのか

Why Increasing Numbers of Physicians with Disability Could Improve Care for Patients with Disability
Iezzoni LI, AMA Journal of Ethics, 18(10):1041-1049, 2016.

 

アブストラク
障害のある人の日常生活や好み、価値観、期待について、医療専門職の間で誤った思い込みがあり、それが障害のある人の医療格差、医療現場での不完全なコミュニケーション、ケアの質の低さに影響している可能性がある。これまで人種および民族間における格差を低減するための取り組みとしては、医師集団の多様性を拡大することに重点が置かれてきた。果たして、障害のある医師の数を増やすことは、障害のある患者にとって有益だろうか?
  
 障害があると自ら認識する医師の数を増やすことは、患者における障害に関連した障壁を積極的に解消するための戦略のひとつだが、そのような取り組みは大きな課題に直面する可能性がある。しかしそれにもかかわらず、例えば診療のための特別な設備(例えば、高さ調節可能な検査台)を必要とする医師は、同様の設備を必要とする患者にも利益をもたらす可能性がある。そのような障害のある医師がいることは、同様の障害をもつ人々に対して「患者中心のケア」を提供するのに有益であると考えられるのである。

障害のある人の医療に関する医師の認識

Physicians’ Perceptions Of People With Disability And Their Health Care
Iezzoni LI, Rao SR, Ressalam J, et al, HEALTH AFFAIRS, 40(2); 2021.  

 

アブストラク
6,100万人以上のアメリカ人が障害を抱えており、障害のある人が医療格差を経験しているというエビデンスが増加している。こうした格差には多くの要因があると考えられるが、ほとんど研究されていないものの1つは、障害のある人々に対する医師の認識に関係している。

 

米国の現役医師714人を対象とした調査では、82.4%が重度の障害を持つ人の生活の質(QOL)は障害のない人より低いと捉えていた。また障害のある患者に対して、障害のない人と同じ質の医療を提供できることに非常に自信がある医師はわずか 40.7%で、自分の診察に障害のある患者を歓迎すると答えたのは56.5%、医療制度が障害のある患者に不公正であることに強く同意したのは18.1%だった。

 

1990年に障害のあるアメリカ人法(ADA法)が制定されてから 30年以上が経過しているが、障害のある人の医療に対する医師の認識は、障害のある人への公平な医療ケアの確保に疑問を呈するものだった。医師集団における潜在的な偏った見解は、障害のある人における根強い医療格差の一因となる可能性がある。

障害のある人の医療に関する医師の認識

Physicians’ Perceptions Of People With Disability And Their Health Care
Iezzoni LI, Rao SR, Ressalam J, et al, HEALTH AFFAIRS, 40(2); 2021.  

 

アブストラク
6,100万人以上のアメリカ人が障害を抱えており、障害のある人が医療格差を経験しているというエビデンスが増加している。こうした格差には多くの要因があると考えられるが、ほとんど研究されていないものの1つは、障害のある人々に対する医師の認識に関係している。

 

米国の現役医師714人を対象とした調査では、82.4%が重度の障害を持つ人の生活の質(QOL)は障害のない人より低いと捉えていた。また障害のある患者に対して、障害のない人と同じ質の医療を提供できることに非常に自信がある医師はわずか 40.7%で、自分の診察に障害のある患者を歓迎すると答えたのは56.5%、医療制度が障害のある患者に不公正であることに強く同意したのは18.1%だった。

 

1990年に障害のあるアメリカ人法(ADA法)が制定されてから 30年以上が経過しているが、障害のある人の医療に対する医師の認識は、障害のある人への公平な医療ケアの確保に疑問を呈するものだった。医師集団における潜在的な偏った見解は、障害のある人における根強い医療格差の一因となる可能性がある。

聴覚障害のある医療専門職に対する教育から雇用における配慮

Exploring accommodations along the education to employment pathway for deaf and hard of hearing healthcare professionals
Moreland CJ, Meeks LM, Nahid M, et al., BMC Medical Education, 22(345),2022. 

 

背景
医療専門職のなかで聴覚障害のある者(DHH:Deaf and Hard of Hearing)は十分なサービスを受けられておらず、過小評価されている。障害のある医療従事者が成果を上げるのに大きなバリアとなっているのは、教育及び雇用における効果的な配慮に関することである。本研究の目的は、医療者教育における配慮に関して、聴覚障害のある者の個別の体験を記述することである。

 

方法
オンライン調査と多方面におけるスノーボールサンプリング法を利用して、自ら聴覚障害があると認識し、米国の医療専門職の学校に応募した者を募集した (合否は問わなかった)。複数の専門職に応募した148人が回答し、そのうち51名は研修を終了していた。回答者の80%以上が医療専門職の学校や研修プログラムに合格したか、現在在籍しているか、修了しており、雇用状態の者も含まれていた。調査項目には、医療専門職プログラムや雇用に応募した経験、学校や研修での対応に関する満足度、障害者支援専門員 (DRP:Disability resource professionals) との関わり、うつ病のスクリーニングが含まれていた。

 

結果
配慮の方法やタイプは多様だった。回答者は、在学中、配慮の調整や管理に週平均 2.1 時間を費やしていた。プログラムが提供する配慮に非常に満足していたのはわずか50%だった。障害者支援専門員  (DRP) の活用は、在学中 (56%) が最も多く、卒業後の研修中 (20%) や就職後 (14%) はそれほど使われていなかった。学校から雇用に直接移行した回答者は、(間に追加の研修を行った者と比較して)在学中の環境に対する満足度が高く、雇用に繋がった割合が高かった(p = 0.02)。 17人の回答者がうつ病リスクのスクリーニング検査で陽性だった。スクリーニング検査が陽性であることと、学校における配慮に対する満足度の低さには、有意な相関が見られた。

 

結論
聴覚障害のある者は、多くの医療専門職において研究や実践を行っている。回答者のほとんどは医療専門職プログラムへの入学に成功していたが、配慮体験と満足度にはばらつきがあった。配慮への満足度は、就職における成功および健康状態と関連していた。満足度が低いとうつ病の症状が出る可能性も高かった。障害のある人の雇用が増えるように、医療専門職の学校や研修プログラム、雇用主は、障害のある人々の学習と労働環境に関するサポートを強化する必要がある。

障害のある医療系学生の支援専門職の養成について

(今日は文献紹介でなく、米国での取組み紹介)

米国のDocs with Disability Initiative は障害のある医療者支援に取り組む民間団体である。本格始動は2022年7月だが、それ以前から多くの調査研究の蓄積がある。障害のある医療者・医療系学生にまつわる読書会や、当事者や支援者など、様々な人達の体験談をPodcastで配信するというユニークな試みが多く、サイトは覗きに行くだけでもとても面白い(もちろん、勉強になる)。

   

そんなDocs with disability Initiativeが、”DRP Academy”と称して、今回障害のある医療系学生・医療者を支援する支援員の養成プログラムの2023-2024期の募集を開始したDRPとは、Disability Resource Professionalの略。日本だと「障害学生支援員」「コーディネーター」と呼ばれる方と近いと思う。

  

概要は以下の通り

  • 受講期間:1年間
  • 学習内容
    • 障害に関連する法律
    • 臨床における配慮
    • 試験における配慮申請とサポート
    • 支援技術
  • 応募条件は以下
    • 2-5年の一般的なDRPとしての経験があること
    • 医学または健康科学のDRPとして1年以上経験があること
    • 所属機関や管理者からの許可があること
    • 全てのオンラインミーティングに参加できること
    • 全てのオンライン会議に参加し、かつ、カリフォルニア州ロサンゼルスで開催されるセッションに参加できること