障害のある医療系学生・医療者のこと

障害のある医療系学生や医療者、また障害のある人の医療に関する論文の備忘録です

「患者」か「専門家」か?学外教育における配慮とアイデンティティに関するせめぎ合い

'Patient' or 'professional'? Negotiating accommodations and identity in fieldwork education.

Edelist T, Zaman S, Katzman E, Jarus T. Medical Education 2024.

 

背景と目的

高等教育における障害のある学生に対する配慮提供は義務であるにもかかわらず、保健福祉サービス (Health and Human Service:HHS) 関連の教育プログラム、特に現地教育のプログラム内で、配慮提供がなされていないことがよくある。

本研究は、10のHHSプログラムにおける障害のある学生経験を調査するカナダ全土の研究の一環で行われた。障害の認識が、学生の現地教育での経験とどのように関連するかを明らかにするために、HHSの学生が現地教育においてどのように配慮を申請することを説明するかを調査した。1つの重要な障害研究の枠組みを用いて、私たちは、HHS の現地教育が障害や配慮、専門職の能力をどのように理解し、それらへの理解が、配慮義務と実際の乖離について何を明らかに宇するのかを探索した。

 

方法

現地教育において配慮を申請している35名の学生にインタビューを行った。インタビューデータの批判的解釈分析を通じて、現地教育における配慮に関する学生の多様性や、類似性、主観的な経験の豊富で複雑な様子を表す1人称のナラティブ(語り)を構築していった。

 

結果

期待される専門的能力と不釣り合いだと感じる障害に関する認識が、現地教育で自らの障害を明らかにし配慮を得るという学生の経験にどのように影響したかが、2つの複合的な語りから示されていた。偏見や能力を疑われることへの恐怖や、職業上の期待とずれているという理由で配慮申請が拒否されることは、HHS の現地教育と実践が、能力主義の体系的構造に寄っていることを示している。

 

考察

HHS教育では「障害の医学モデル」が主流で、学生に対して、「患者」アイデンティティと「専門職」アイデンティティを常に再構築することを要求してしまっている。この患者と専門職のアイデンティティは、HHSの専門職の能力と「良い医療者を作る要素」に関する仮説と関連している。

専門職の能力を再検討し、将来および現在の HHS 専門職に、個人的および実践的な仮説の両者に疑問を持ってもらうような教育的アプローチが重要である。
制度的な後押しがあれば、 HHS 内の多様性と、より公平な教育と医療を推進する可能性がある。

障害のある人に対する医学生の態度改善を意図した授業

Integration of Disability Awareness Improves Medical Students’ Attitudes Toward People with Disabilities

Sinha T, Parish A, Lein Jr DH, Wylie E, Carver C, Brooks WS, Medical Science Educator 2024.

 

背景:

障害のある人が医療にかかるには、特別な調整やより包括的に見る視点が必要だが、医師はしばしばその人に合った医療提供に関する準備が出来ていない。今回、医学2年生対象の多角的に障害のある人への気づきを促すカリキュラムが実施された。これには、身体障害および知的障害、発達障害のある個人に対するエチケットや、患者中心の医療提供や多職種連携学習が含まれている。

 

目的:

混合法を用いて、学部学生に対して展開された障害啓発カリキュラムを評価すること。

 

方法:

評価は、コース評価と、障害のある人に対する態度と視点(APPD)スケール、および障害のある人に対する多次元態度スケール(MAS)を含む事前および事後調査、および学生のフォーカスグループを実施して行われた。

 

結果:

障害のある人に対する態度と視点:APPD (授業前 2.11 ± 0.43 VS 授業後 1.7 ± 0.39) と 障害のある人に対する多次元態度スケール:MAS (授業前 2.45 ± 0.43 VS授業後 2.25 ± 0.55) の両方の平均スコアは、数値が低いほど好意的な態度を示しており、カリキュラムが医学生の障害のある人に対する態度を改善したことを示していた (p < 0.05)。 フォーカスグループインタビューでは、教育、快適さのレベル、将来の実践への影響、障害の違いという4つの主要テーマが浮き彫りになった。

 

考察:

本カリキュラムは、医学生に効果的な障害教育を提供し、将来の医師が障害のある人や障害のある人に特有のニーズに対応できるように備えるための貴重な枠組みとなる可能性を秘めている。

Demystifying Disability

Demystifying Disability

What to Know, What to Say, and How to Be an Ally 

Emily Ladau, TEN SPEED PRESS, NY, 2021

 

(これから読もうとしている本の目次)

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Introduction
Why do we need to demystify diasability?

Chapter1
So What Is Disability, Anyway?

Chapter2
Understanding Disability as Part of a Whole Person

Chapter3
An (Incomplete) Overview of Disability History

Chapter4
Ableism and Accessibility

Chapter5
Disability Etiquette 101

Chapter6
Disability in the Media

Conclusion:
Calling All Allies and Accomplices

 

米国の1年目の研修医が障害を開示し配慮を求めることにおいてバリアとなるもの

Barriers to Disclosure of Disability and Request for Accommodations Among First-Year Resident Physicians in the US
Karina Pereira-Lima K, Meeks LM, Ross KE T; JAMA Netw Open. 6(5):e239981, 2023.

 

【キーポイント】

なぜ障害のある研修医は自分に必要な配慮を求めないのか。

 

結果
障害を持つ1年目の研修医173人を対象としたこのコホート研究では、配慮が必要な研修医の50.6%が配慮を求めていなかった。スティグマや偏見を恐れること、および明確な制度的プロセスがないことが、必要な配慮を要請しない理由として最も多く報告された。

 

意味
結果から卒後(大学院)の医学教育において、障害情報の開示システムの透明性を高め、最善の方針を遵守することが必要であること、またプログラム責任者は、配慮を求めるに当たって安全でなくサポートされていない環境の要因を調査すべきであると示唆された。

 

【要約】
背景として重要な点
研修医とその患者にとって、研修医の障害における配慮の確保は非常に重要である。しかし研究によると、障害のある研修医のかなりの割合が、必要な配慮を要求していない。

 

目的
障害のある1年目の研修医(インターン)の間での配慮の要請の頻度を評価し、必要な配慮を申請しない要因の可能性を特定すること。

 

方法
研修医1年目の縦断的コホート研究であるIntern Health Studyの一環として、米国64施設の外科系・非外科系研修プログラム86施設の研修医が、入学2ヵ月前(2021年4月~5月)に人口統計学的特性と研修特性を提供した。研修医年度終了時(2022年6月)に、参加者は、障害の有無、障害の種類、配慮を受けたかどうか、配慮を受けなかった場合はその理由など、障害関連情報に関する質問を含む新たな調査に回答した。事後層別化と離脱の重み付けは、配慮を求めた頻度と配慮を求めなかった理由を推定するために用いられた。少なくとも1つの障害を報告したインターンを分析に含めている。

 

主なアウトカムや測定尺度
自己申告の障害の有病率、研修医の専門分野の分布、配慮を求めた頻度、配慮を求めなかった理由

 

結果
ベースライン調査に回答した研修医1486人のうち、799人(53.8%)が障害の質問に回答した。そのうち94人(11.8%;加重数、173人[11.9%])が少なくとも1つの障害を報告し、本研究の対象となった(加重数、男性91人[52.6%]、女性82人[47.4%]、平均年齢[SD] 28.6[3.0]歳)。障害があり、配慮が必要と報告した研修生(173人中83人[48.0%])のうち、半数以上(42人[50.6%])は配慮申請を行わなかった。必要な配慮を求めなかった理由として最も多く報告されたのは、スティグマや偏見に対する恐れ(25人[59.5%])、便宜を求めるための明確な制度的プロセスがない(10人[23.8%])、文書がない(5人[11.9%])であった。

 

結論
プログラム責任者は、研修生が安心して障害を開示したり配慮を要求できないような環境の一因となっているプログラム内の文化的・構造的要因を調査し、障害関連の方針を見直して明確にするべきである。

事例学習における障害関連の「隠れたカリキュラム」を探索する質的研究

Exposing the disability-related hidden curriculum in case-based learning: A qualitative study
Seymour R, Scher , Frasso R, et al.,Disability and Health Journal, 2023. https://doi.org/10.1016/j.dhjo.2023.101483

 

背景
障害のある人は著しい健康格差に直面している。研究によると、医療従事者は障害に対して否定的な態度を抱いており、その態度はケアの質を低下させている。このような態度は、医学教育の場において、医療従事者から学習者に対して、言外で非公式に、意図されない形で伝えられている可能性がある。

 

目的
批判的障害学(CDS:Critical Disability Studies)のパラダイムを用いて、著者らは症例ベース学習(CBL:Case Based Learning)の中にある障害に関連した隠れたカリキュラム(Hidden Curriculum)を明らかにし、能力主義に抵抗する障害に配慮した医学教育を推進するためのガイドラインを提案した。

 

方法
研究チームは、シドニー・キンメル医科大学の臨床実習前カリキュラムで取り上げられる全CBLの症例(n=53)を対象に質的分析を行った。著者らは、症例の検討、文献レビュー、CDSの概念に基づいてコードブックを作成するために、指示内容分析アプローチ(directed content analysis approach)を採用した。2人の研究者が全症例をコード化し、分析者間の信頼性を評価した。結果は、説明モデルの構築に用いた。

 

結果
53件中、障害について明確に言及しているのは4件のみで、いずれもCDSに従った障害の定義を用いていなかった。コーディングでは、ステレオタイプな障害観に挑戦する内容は特定されなかった。また2つの事例には、障害に対する否定的な態度を煽る内容が含まれていた。

 

結論
CDSの観点から障害を十分に取り上げないことで、障害に対する有害な思い込みが否定されないまま、CBL内に隠れたカリキュラムが作られている可能性がある。これは、医学生が障害のある人々へのケアを想定しないまま、次世代を指導する医師になることにつながる。
多くの医療専門職が学生を教育するためにCBLを利用しているが、これらで取り上げられる事例は、既存の能力主義に抵抗し、障害のある人が経験する健康格差の原動力となっている否定的な態度に対処するため、学生によりよい準備をさせるものでなくてはならない。

米国医学部教育における障害学生割合と臨床での配慮提供

National Prevalence of Disability and Clinical Accommodations in Medical Education
Meeks LM, Case B, Taylor N,Journal of Medical Education and Curricular Developmnent,2020. https://doi.org/10.1177/238212052096524

 

背景
本研究の目的は、医学の学部教育(UME)における全国的な障害学生の割合を評価し、MD課程とDO課程における障害区分や配慮の実践の違いを検討することである。

 

方法
2020年5月20日から6月30日に、対象となるDO課程の医学部の機関代表者の75%がウェブ調査に回答した。本調査では、障害のあるDO課程の学生の割合、障害区分、および配慮の割合を評価した。結果の要約には記述統計を用いた。2019年のMD課程対象の調査データを用いて、MDとDOのプログラム間の比較を行い、医学部教育における全体的な障害学生割合と配慮の実践について両者の差を評価した。

 

結果
DO課程では、全登録者の4.27%に障害があった。注意欠陥・多動性障害(ADHD)、精神障害、慢性疾患が最も多く報告された。DO課程では、MD課程よりもADHDの割合が高かった。MD課程とDO課程全体の障害学生の割合は、4.52%であった。MD課程では、DO課程に比較して障害のある学生数が多く、精神障害のある人の割合が高いと報告された。障害を公表しているDO課程の学生の100%が何らかの配慮を受けていた。一般的な臨床上の配慮は、MD課程のほうがDO課程よりも頻繁に提供されていた。

 

考察
本研究は、米国の医学生における障害と配慮に関する初の包括的な割合を示すものである。本調査におけるデータはDO課程のベンチマークとなり、医学教育におけるカリキュラム開発、指導計画、障害学生へのサポート、資源配分に示唆を与えるものである。

米国の1年目の障害のある研修医に対する配慮について

Accommodations Among First-Year Resident Physicians in the US
Pereira-Lima K, Meeks LM, Katherine E, et al.,JAMA Netw Open, 6(5):e239981, 2023.


【キーポイント】

問い
なぜ障害のある研修医は必要な配慮を求めないのか。

 

重要な結果
1年目の障害のある研修医173名の調査では、50.6%が配慮が必要だが求めていないと回答した。配慮を求めない理由としては、スティグマや偏見への恐れ、配慮決定のプロセスの不明確さが挙げられた。

 

結果が意味すること
障害の告知に関し、て明確な方針のもと示される透明性とコンプライアンスが卒後研修において非常に重要である。当事者にとって、配慮を求めることにおいて安全でなくサポーティブでない環境に影響している要因を、教育プログラム責任者は明らかにする必要がある。

 

【要約】

重要な点
研修医とその患者にとって、配慮への配慮が保証されていることは非常に重要である。研究によると、障害のある研修医のかなりの割合が、必要な配慮を要求していないことが示されている。

 

目的
障害のある1年目の研修医(インターン)の間での配慮要請の頻度を評価し、必要な配慮を申請しない要因を明らかにすること。

 

研究デザインと参加者
研修医1年目の縦断的コホート研究であるIntern Health Studyの一環として、米国64施設の外科系・非外科系研修プログラム86施設の研修医が、研修開始2ヵ月前(2021年4月~5月)に人口統計学的特徴と研修特性を回答した。
その後、研修年度終了時(2022年6月)に、参加者は、障害の有無、障害の種類、配慮を受けたかどうか、配慮を受けなかった場合はその理由など、障害関連情報に関する質問を含む新たな調査に回答した。少なくとも1つの障害があると回答した者を対象に行った。

 

アウトカム
障害のある研修医のうち、各障害の割合、研修医の専門分野、配慮を求めた頻度、配慮を求めなかった理由について記した。

 

結果
ベースライン調査に回答した研修医1486人のうち、799人(53.8%)が障害関連の問いに回答した。そのうち94人(11.8%;加重数、173人[11.9%])が少なくとも1つの障害を報告し、本研究の対象となった(加重数、男性91人[52.6%]、女性82人[47.4%]、平均[SD]年齢、28.6[3.0]歳)。障害があり、配慮が必要と回答した研修生(173人中83人[48.0%])のうち、半数以上(42人[50.6%])は配慮を申請しなかった。必要な配慮を求めなかった理由として最も多く報告されたのは、スティグマや偏見に対する恐れ(25人[59.5%])で、また配慮を求めるための明確な制度的プロセスがない(10人[23.8%])、文書がない(5人[11.9%])といった回答があった(表2)。

 

結論
プログラム責任者は、研修医が安心して障害を開示したり、配慮を要求したりできないような環境の一因となっているプログラム内の文化的・構造的要因を調査し、障害に関する方針を明確に見直すべきである。