障害のある医療系学生・医療者のこと

障害のある医療系学生や医療者、また障害のある人の医療に関する論文の備忘録です

事例学習における障害関連の「隠れたカリキュラム」を探索する質的研究

Exposing the disability-related hidden curriculum in case-based learning: A qualitative study
Seymour R, Scher , Frasso R, et al.,Disability and Health Journal, 2023. https://doi.org/10.1016/j.dhjo.2023.101483

 

背景
障害のある人は著しい健康格差に直面している。研究によると、医療従事者は障害に対して否定的な態度を抱いており、その態度はケアの質を低下させている。このような態度は、医学教育の場において、医療従事者から学習者に対して、言外で非公式に、意図されない形で伝えられている可能性がある。

 

目的
批判的障害学(CDS:Critical Disability Studies)のパラダイムを用いて、著者らは症例ベース学習(CBL:Case Based Learning)の中にある障害に関連した隠れたカリキュラム(Hidden Curriculum)を明らかにし、能力主義に抵抗する障害に配慮した医学教育を推進するためのガイドラインを提案した。

 

方法
研究チームは、シドニー・キンメル医科大学の臨床実習前カリキュラムで取り上げられる全CBLの症例(n=53)を対象に質的分析を行った。著者らは、症例の検討、文献レビュー、CDSの概念に基づいてコードブックを作成するために、指示内容分析アプローチ(directed content analysis approach)を採用した。2人の研究者が全症例をコード化し、分析者間の信頼性を評価した。結果は、説明モデルの構築に用いた。

 

結果
53件中、障害について明確に言及しているのは4件のみで、いずれもCDSに従った障害の定義を用いていなかった。コーディングでは、ステレオタイプな障害観に挑戦する内容は特定されなかった。また2つの事例には、障害に対する否定的な態度を煽る内容が含まれていた。

 

結論
CDSの観点から障害を十分に取り上げないことで、障害に対する有害な思い込みが否定されないまま、CBL内に隠れたカリキュラムが作られている可能性がある。これは、医学生が障害のある人々へのケアを想定しないまま、次世代を指導する医師になることにつながる。
多くの医療専門職が学生を教育するためにCBLを利用しているが、これらで取り上げられる事例は、既存の能力主義に抵抗し、障害のある人が経験する健康格差の原動力となっている否定的な態度に対処するため、学生によりよい準備をさせるものでなくてはならない。